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「好き」を分け合うコーヒー屋さん
-魅力的な個性と出会い、迷い、夢中になった-
岡本 夏季(Natsuki OKAMOTO)

コーヒーとサンドイッチおかもと 店主
岡本さんの今
「飲み食いが好き、自分のお店を持ちたい」
伊那市駅前の交差点の一角に小さなコーヒー屋がある。
お店に入ると「こんにちは~」と笑顔で迎えてくれるのは店主の岡本夏季さん。
岡本さんは信州大学農学部を卒業して、いくつかの仕事を経験した後、
2014年に「コーヒーとサンドイッチおかもと」を開業した。
大学卒業後は測量事務所や飲食店でアルバイトをしてお金を貯め、海外を旅した時期もあったという。
その後、憧れていた薪ストーブの会社に就職もしたが、9年間務めた後に退職した。
そんなとき・・・岡本さんの目にとまったのはコーヒー屋の求人だった。
「これだ!と思った。飲み食いが好きだったし、自分のお店を持つことを目標に修業させてくださいって」
岡本さんは「伊那が大好き」だという。
大好きなまちにお店を開き、今ではまちの人や情報が集う場となっている。
「伊那のまちのインフォメーションセンター」
岡本さんのお店の壁や本棚、カウンターは伊那のまちにまつわる音楽やマルシェ、映画などの情報でいっぱい。
その理由について、次のように言っていた。
「インフォメーションセンターっていうのが最初からのテーマなんです。お店を開いた当時、伊那の情報発信ができる場所が
少ないなって感じていたから、情報を蓄積して伊那ってこんなところですって伝えたいと思って」。
というのも、岡本さんには(学生時代に)ニュージーランドや(卒業後に)カナダを旅した際、
インフォメーションセンターを通じて、訪れたまちの情報に触れる経験があったそう。
お店中に散りばめられた色々な情報のカケラ。自分の知らない伊那の魅力がこんなにあったんだ!と驚いた。
でも、このように沢山の情報をどうやって集めているのだろうか? そう思い聞いてみると、岡本さんは
「いつの間にかみんなが持ってきてくれるようになったんです。イベントが終わったものでも
話の種になりそうなものは置いてあって、例えばそれとか・・・」と壁のポスターを指さした。

岡本さんの生き方
「好きを分けてもらっている」
お店に散りばめられた種をきっかけに、話は広がったり深まったりして、私はどんどん惹き込まれた。
伊那の話、食べ物の話、音楽の話、それに植物の話まで。そこには岡本さんの「好き」がたくさん登場した。
ミュージシャンやライブの話を熱く語る岡本さん。意外にも、音楽に夢中になったのは大学時代からだったそう。
「信大に入って、音楽好きな友人や先輩が周りにいたことや伊那のライブハウスとの出会いが大きかったです」
という。音楽以外にもたくさんの「好き」を持っている理由について、岡本さんは次のように言っていた。
「色々な人に出会って、そこから分けてもらっているところがあると思う」
「何か打ち込めるものがないとだめになる人間なんだと思う」
幅広いジャンルに「好き」を持つ岡本さんだが、驚くのは一つ一つへの熱量でもあった。
植物や自然も好きだといい、中でも特別に好きな植物があるそうで・・・
「中高生の頃から野生のランにハマって、中でもネジバナが1番で、今もずっと好き。初めてネジバナを見た時、
えらいつやつやしてかっこいい葉だなぁ〜と思って、特別感が芽生えたのがきっかけでした」
と岡本さんは育てているネジバナを見せてくれた。鉢の中には小さくて、立派な葉が顔を出していた。
音楽や植物の話をする岡本さんの顔は生き生きしていた。そこで趣味について聞いてみると、
「何か打ち込むことがないとダメになる人間なんだと思う。50代になってバンドとか山登りを全然やらなくなってしまって。
何か夢中になれるものが欲しいなと思って、もう1回ネジバナやろう!と思ったんだよね。
シーズンになると珍しい子を探して、自生地を巡るネジバナおじさんと化している」と笑いながら話してくれた。
「好き」を分けてもらうような入り口の広さと突きつめていく深さ、
その両方の性質を持っているところが岡本さんに魅了される理由の一つなのかもしれない。

岡本さんも元は信大生だった
「個性豊かな人たちと出会い、没個性に悩んだ」
そんな「好き」に打ち込む岡本さんだが、
高校時代は友人に植物(ラン)の魅力について熱く語っても興味を示してもらえなかったそう。
信大に来たら、変わりましたか?と聞くと、意外な答えが返ってきた。
「そう。だけど、自分より植物に詳しい先輩とか、変態みたいな人ばかりで、今度は没個性に悩むことになるの。
みんなの方がすごいじゃん!って。他にも、丸太を削ってカヌー作る人とか、1人でタイやインドを旅する女の子とか、
チャリンコでニュージーランド周る人とか、もうすごい人ばかりだった!」
それから、もう一つ信大に来て変わったことの話をしてくれた。
それを聞いて、いやいや岡本さんもかなり個性的では?と突っ込みたくなった。
「(信州に来て)まず、嬉しかったのは地元にないランがあったことかな。西駒演習林に1人で探しに行ったり・・・
それから、高校時代から憧れていた八ヶ岳グリーンパトロールに応募して、そのときは山小屋を手伝って
寝る場所と食事を提供してもらって。朝4時半くらいに起きて、山小屋の朝ご飯の準備をして、
多い時は尾根沿いを1日30kmくらい、高山植物を探し歩いてました」
「一緒の時間を過ごせたことが宝物」
最後に、岡本さんにとって信大ってどんなところですか?と尋ねると
「信大に来なかったら出会えなかった、個性豊かな色々な感性の人たちと一緒の時間を過ごせたのが宝物です」
と答えてくれた。植物や音楽などが変態的に好きな人、とんでもない物を自作する人、世界中を旅する人。
きっと岡本さんは魅力溢れる個性との出会いに戸惑いながらも、たくさんの「好き」を分けてもらったのだろう。
また大学の中だけではなく、外から来た自分をあたたかく迎え入れてくれた地域の人たちとの
出会いも大きかったといい、「(お店を開く場所として)伊那以外には考えなかった」と話す。
そして現在は・・・宝物と思えるような時間を過ごし、夢中になっていったこの土地で
訪れる人たちと「好き」を分け合うコーヒー屋を営んでいる。
「一緒の時間を過ごせたのが宝物」という岡本さんの言葉は
まさに今、魅力的な個性を持ち、面白くて変な人たちに囲まれて、学生生活を過ごす私の心に響いた。
彼らと過ごす日々は楽しい。一方で、自分には何もないような気がして悲しい気持ちになることもある。
岡本さんがいう「没個性」というものかもしれない。今回の話を聞いて、それくらい素晴らしく尊敬できる人たちに
恵まれていることに気がついた。大学を卒業するまでもう少ししか時間が無いけれど、
出会った人たちと過ごす時間を大切にしていきたいと改めて思った。
2024.10.2.in コーヒーとサンドイッチおかもと
<ゲスト>
岡本夏季 Natsuki OKAMOTO
森林科学科1995 (H7)年 卒業
コーヒーとサンドイッチおかもと 店主
<筆者>
近藤梨沙 Risa KONDO
森林・環境共生学コース4年
農村計画学研究室