top of page

森・町・人の「編集者」

―難しそうに見える簡単な夢から―

奥田 悠史(Yuji OKUDA)

奥田悠史さん サムネ.jpg

株式会社やまとわ 取締役・一般社団法人〇と編集社 理事・Alpenglow works 代表

奥田さんの今

「森・町・人の気持ちを大切にすると新しい企画が生まれる」

インタビュー前、奥田さんのお仕事が一体どんなものなのか想像が付かなかった。

森林を活用する会社、まちづくり会社、デザイン事務所、彼の仕事には掴みどころがない。

だから、僕「結局奥田さんの仕事ってなんですか?」、奥田さん「編集者です」、僕「え?」

 

奥田さんにとって「編集者」とは、価値を生み、そのものの魅力を届けたい人へ届ける人のこと。

編集の出口は、メディアでもプロダクトでもサービスでも良い。

そして、編集のフィールドとして選んだものが、「森・町・人」だという。

 

森の会社では、プロダクトやサービスを通して森林の価値を生み出し届ける。

町の会社では、町に住む様々な人の気持ちをくみ取って、新たな町づくりを提案する。

「異なる意見の他者たちと共に未来をどう見るか」が編集の力であり、

森・町・人、多様な他者の気持ちを大切にすることで新しい企画が生まれるのだという。

「乗り換え可能なオルタナティブな選択肢を小さく創る」

奥田さんは、「森をつくる暮らしをつくる」を理念に挙げる株式会社やまとわで、
森の資源に価値と利用を生み出すためのプロダクトやサービス、イベントの創出を行っている。
「経木(きょうぎ)」という木を紙のように薄く削った日本伝統の包装材もまたその1つで、
会社には木を削る機械、干し場などがあり、優しそうなスタッフの方々と仕事をしていた。
顔の見える関係が良いから、学校1クラスくらい、30人くらいの会社でありたいという。

一つの言説が浸透して社会が変わることがあるかもしれない。
現に、奥田さんが進めてきた「森と暮らしの〇〇」といったビジネスや記事は近年増えている。
1クラス30人くらいの小さな会社の成功事例は、確実に社会を変え続けているのだと感じた。

 

地球温暖化が深刻化する中で急激なトランジションが必要という議論があるが、
それに伴ってたくさんの不幸も生まれる。それを踏まえた上で奥田さんは、
「僕がやりたいのは、乗り換え可能なオルタナティブな選択肢を小さく創ること」だと。
鳥肌が立った。

大企業なりが気づいたときに、乗り換えられる道を小さい会社が創っておく。
そこに飲み込まれたら飲み込まれたらで良い。
「M&Aで買い取ってもらって、僕は旅に出るんで笑」

奥田悠史さん 経木.jpg

やまとわ 信州経木

奥田さんの生き方

「今、自然は他者としての尊厳が無いんじゃない?」

奥田さんから「自然は怖い」という予想外の言葉が飛び出した。

人間がこれだけやったら防げるってものを作っても、一瞬にしてそれを超えていく力がある。

その自然を壊すことへのいつかの仕返しに恐怖心と違和感があるのだと。

 

また、「今、自然は他者としての尊厳が無いんじゃない?」と話してくれた。

ほとんどの人が自然のことを知らない、興味がない、だから壊れていても良い、そんな状態。

だけど、奥田さんは人も町も自然も「他者として尊厳を持って接したい」のだという。

これこそが「編集者(多様な他者の気持ちを編集する)」である所以なのだと感じた。

「違和感なく生きたい」

他者への想像力を持つ奥田さんにとってこの世界は、不条理がすごく多い。
日本に木を輸出するために先住民の森が伐採され、それにより民族の分断が起きること。
温暖化によって先端的に被害を受けるのは僕らでないこと。
そして、それらは僕らの安い暮らしに紐付いていて、しかも僕らに悪意が無いこと。

提案された安い木材で家を建てただけなのに、それが何千キロも離れた人の人生を変えてしまっている。
「それは嫌な人生だな、って。だから違和感なく生きていたい。」

奥田悠史さん 対談.jpg

奥田さんも元は信大生だった

「小さくジャンプする、目の前の人の役に立つ」

では、どのようにして奥田さんは「信大生」から「編集者」になったのだろうか。
その答えは奥田さんの中で明確にあるという。
「小さくジャンプする」と「目の前の人の役に立つ」

多くの人は水たまりをジャンプして超えられるが、大きな川を前にすると渡れる気がしない。
渡れるかどうかはこれまでの経験の蓄積。これなら飛び越えられる、これは船が必要、みたいに。
だからまずは水たまりでもいいから小さくジャンプする。

そのために1番手っ取り早いのが「目の前の人の役に立つ」ことだという。
誰かが与えてくれたことに対して最高の結果を残そうって。
困っている人を助けることでその人の視野・視座(こうやって困ってるんだとか)が分かってくる。

「誰にでもできる難しそうに見える簡単な夢」

奥田さんにとっての最初のジャンプは信大生の時だった。
学生時代に「世界一周」の旅へ出た。

嘘みたいな話だが、世界一周や自転車で日本一周することは簡単な夢だという。
もっとできないことはたくさんあって、サッカー選手になるとか、一流企業に就職するとか。
なぜならそれらは他者と自分の才能の影響を受けすぎる。
だけど、世界一周に才能はいらない。お金と時間さえ確保すれば誰にでもできる。
間違いなく世界一周は「誰にもできる難しそうに見える簡単な夢」だった。

 

帰国後から奥田さんの人生は変わった。
旅中に書いていたブログの影響もあって、写真やライターの小さな仕事を頂くようになり、
今も続く「Alpenglow works」の屋号を持つことになる。そして今…

なんだかハッとした。今、自分の周りには「小さなジャンプ」が溢れている。
面倒くさいから放棄しようとしている。正直、この記事や80周年イベントもそうだ。
だけど、今回は飛んでみようと思う。
きっとこの記事は、未来の僕を形づくる大切な「小さなジャンプ」だから。
Thank you for reading my precious “little jump”.

2024.5.17 in 株式会社やまとわ

<ゲスト>

奥田 悠史 Yuji OKUDA

森林科学科 2012(H24)年卒業

株式会社やまとわ 取締役 https://yamatowa.co.jp/

一般社団法人〇と編集社 理事 https://maruto.or.jp/

Alpenglow works 代表 https://alpenglow-w.com/

<筆者>

鏡 平 Taira KAGAM

環境共生学ユニット 博士課程1年
農村計画学研究室

bottom of page